昨年の12月に最高裁で「預貯金は現金と同様に、法律に定められた割合に縛られず相続人の協議で遺産分割できる」という判断が示されました。これについて、少し詳しく説明しましょう。

遺産分割については、遺言があれば遺言に基づいて行われますが、遺言がなかったり遺言に記載されていない財産があった場合には、相続人間で話し合って決めます。(これを「遺産分割協議」といいます。)

ところで、これまでは遺産分割の対象は不動産や株などで、現金や預貯金などはその対象とはならないとされてきました。つまり、現金や預貯金については、その相続分は話し合って決めるのではなく、民法で定められた法定相続分で分けるとされてきたのです。

これは過去の最高裁の判例がそうであったからで、それに基づいてこれまで家庭裁判所での家事審判では、現金や預貯金については、審理対象からはずされてきたのです。

1954年に出た最高裁の判決以来、これまで預貯金は法定相続分どおりに分けるとされてきました。その判例が今回「廃止」となり、預貯金は遺産分割協議で分けるという決定が下されたのです。これは大きな変更です。

この背景には、法定相続分どおりに分けることが個々の家庭の実情にそぐわない、あるときには不公平になるという懸念がかねてからあったためです。

例えば、AさんとBさんという二人の子供がいて、Aさんは生前親から500万円の贈与を受けていたが、Bさんは何ももらっていなかったとします。そして親が亡くなったとき、1千万円の預貯金があったとします。

この場合、従前の判決だと、預貯金の1千万円はAとBに法定相続分どおり500万円ずつ分けられます。そうなるとすでに、Aは500万円の贈与を受けて合わせて1千万円親から譲り受けたのに、Bは500万円しか譲り受けなかったことになります。

Bに何らの問題が無い場合、これはやはり不公平ではないでしょうか?

そういう懸念が以前から法曹界にもあり、またこのたびその問題を浮き彫りにする具体的な裁判があり、それが最高裁まで争われた結果、今回の決定となったわけです。

今後は、最高裁のこの決定により相続法が改正される見通しです。

ところが今回、最高裁はこの判例を変更しました。それは、この件に関して最高裁まで争われた家事審判があったからです。

その争いとは、亡くなった女性が遺した預貯金約4000万円をめぐり法定相続人二人が争ったもので、法定割合に従えば半々に分けることになるが、ひとりが約5500万円を生前に受け取っていたため、もう一人が全額を相続できると主張していたものです。

これまでの「預貯金は法定相続分どおりに分ける」という判例に従うと、預貯金の約4000万円は半分づつ分けることになり、ひとりは生前贈与の5500万円と合わせて7500万円受け取るのに対して、もうひとりは2000万円しか受け取れないことになってしまいます。

これでは明らかに不公平です。そのため、このような不公平が生じないように、預貯金や現金などの単純に分けることが可能なもの(可分債権といいます)については、相続人同士が話し合って(遺産分割協議)で分けるべきであると過去の判例をくつがえしたのです。

最高裁のこのたびの判断は、判例として家庭裁判所で行われる家事審判の判断の根拠となり、また現在進められている相続法の改正に影響を与えることになりそうです。